
●ホンダ アコード
アメリカ西海岸の空気感で憧れだった、当時を思い出してそう語るテリー伊藤さん。
そんなホンダ アコードの魅力と、これから目指すべき姿の提言を伺いました。
西海岸の匂いがした憧れの特別なクルマ
こうして見ると昔と今でずいぶん変わったよね。僕は初代シビックと3代目のワンダーシビックに乗っていて、お金がなくて買えなかったからアコードは憧れだったんだ。
当時のホンダはイケイケで、他のメーカーとは違う位置にいて、その中でもアコードというのは特別なクルマだった。西海岸の匂いを日本に持ち込んだんだから。ビーチ・ボーイズとかビッグ・ウェンズデーみたいに、ローラースケートを履いてサンタモニカの海沿いを走るような空気感だよね。そして、アメリカで生産された左ハンドルの日本車というのはカッコイイんだっていう価値観を、僕らに植えつけた。
いわば日本に学校指定の体操着のようなスポーツウェアしかなかったときに、NIKEが入ってきて一気にカッコよくなったような感じ。いい時代のアメリカの健康的な文化というかアッパーな家の庭先に置いてあ
るのが似合うような、他の日本車にはない雰囲気があった。
USワゴンあたりもその象徴だよね。今と違ってワゴンがもてはやされた時代だったし、アコードもむしろワゴンが主役じゃないかという気がしたくらいだ。
とにかく当時のホンダ車はドキドキさせるクルマがいくつもあった。アコードはその先駆者だ。エアロデッキもよかったよね。実は今でもかなり気になっていて、いい個体があったら欲しいくらいに思ってるよ。
ところがSUVの時代が来てワゴンは衰退して、やがてアコードもワゴンがなくなった。でもそれは仕方がない。アコードが悪いわけじゃない。
新しいことに挑戦するべき〝嫌悪感〞が時代を変える
そのうち日本ではセダンも売れなくなって、アコードはどんどん居場所がなくなってしまったけど、クルマ自体はとてもよくできている。先日も新型に乗ったけど、ものすごくよかった。それでも今の日本では売れない。ただでさえセダンが売れない中で、ましてやホンダは高価なセダンが売れたためしがない。新型も465万円もして、それがだいたい2年落ちで半値。誰も買わないよね。
実はある雑誌の企画で、どうしたらアコードが売れるかを考えて、紫のマットカラーにして黒いホイールを履かせたらどうなるかCGで作ってみたんだ。するとガラッと雰囲気が変わって、西海岸の幸せそうな家庭のクルマから、そこのバカ息子が夜な夜な出かけるクルマになる(笑)。日本でも夜の青山あたりにいそうな感じのクルマ。良いか悪いか別にして、アコードもそこに挑戦してみても面白いんじゃないかと思うんだ。
例えばかつてラルフローレンはいたって健全なイメージだった。アッパーな白人向けのブランドだった。ところが黒人が金のジャラジャラをつけて着るようになって、ヒップホップのイメージがついてがぜん人気が高まったんだ。いまや原宿あたりのショップでは当時の絶版の古着が新品よりも高い値段で売られていたりするんだよ。
ようするに今までと同じことやっていてはダメで、何か新しい価値を作っていかないと、という話。アコードももっとチャレンジするべきだ。
そのあたりトヨタは上手いよね。欲しい人が殺到したピンククラウンのようにエスカレートしていて面白い例が過去にいくつもある。アコードもマットカラーで中がゼブラやヒョウ柄とかこれまでにない何かを見せてほしい。限定10台でも20台でもいいからさ。
時代というのは常に〝嫌悪感〞が変えていくんだ。例えば若い女の子の黒い下着も最初は嫌悪感があった。一時期のガングロや茶髪も同じ。ビートルズの長髪だってそうだよね。音楽も心地よいメロディが好まれていたところにロックやラップが出てきて、みんなそっちを聞くようになった。食べ物だって、これ!?というのが流行っていく。
江戸時代にも着物の裏を派手な柄にするのが流行ったりした。おそらく昔からずっと似たようなことが繰り返されてきたと思うんだ。普通の人が嫌悪感を持つものが、次の時代を制していくんだよ。
マットカラーもきっといずれはカローラでも選べるようになる。今のアコードに嫌悪感なんてぜんぜんないけど、だからこそ今のうちにアコードでやったらインパクトあるでしょ? ラッピングとホイールなら大してお金もかからないし、面白いと思うんだよね。

歴代アコードを一挙ご紹介 Honda ACCORDの変遷
◆1976年~ 初代
レジェンドが出るまではホンダの最上級機種。2代目からはアメリカでも生産され、姉妹車のビガーも加わった。
◆1981年~ 2代目
◆1985年~ 3代目
ACCORD AERODECK

ロングルーフ&ホイールベースによりセダンをしのぐ後席居住性を実現。後年には北米生産のクーペも逆輸入された。
◆1989年~ 4代目
アスコットとインスパイアが加わり4兄弟に。横置き4気筒と縦置き5気筒、クーペにワゴンとラインアップが拡大。
ACCORD WAGON

ACCORD INSPIRE

◆1993年~ 5代目

初の3ナンバーとなった5代目の米国製ワゴンが大人気を博す。6代目で5ナンバーに戻り、7代目で再び3ナンバー化。
◆1997年~ 6代目

◆2002年~ 7代目

◆2008年~ 8代目

のちに絶版となるワゴンが「ツアラー」に改称。9代目は日本市場にはハイブリッド系のみが導入された。
◆2013年~ 9代目

◆2020年~ 10代目

2017年に北米、翌年に中国で発売。2019年秋の東京モーターショーで日本初公開。先代同様ハイブリッドのみ。